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第6号、2010年08月15日発行 目次
無断転載禁止。著作権は各著者にあります。
  1. 巻頭言:中国の金融・資本市場のゆくえ
  2. アキノ・新大統領の課題 
  3. 「北東アジア協力開発銀行」構想について
  4. アジアビジネスでの経験(1) 第1部
  5. 東マレーシアの魅力(1)
  6. アジアの工業化と経済発展:1つの雁行形態論批判(1)
  7. ニュースの裏を読む(6) GDP世界第2位
  8. 編集後記


I. 巻頭言:中国の金融・資本市場のゆくえ (印刷用pdf)

岸 真清 Kishi Masumi
アジア近代化研究所副代表
中央大学商学部教授、博士(経済学)

 2010年6月21日、中国人民銀行は人民元相場の弾力化を発表した。米ドルとの連動を修正し、複数の通貨の動向を参考にする通貨バスケットを採用することになった。そのねらいは、緩やかではあるが、人民元を切り上げ貿易摩擦を緩和すると共に、国内景気の過熱を抑えることにある。
 欧米諸国や日本と対照的に、中国は資金余剰の状態にある。資本市場の驚異的な拡大も、巨大な国内貯蓄と外資の流入を土台にしている。ちなみに、2008年のIS(投資・貯蓄)ギャップは6.0%(GDP比)と、韓国の1.5%、日本のマイナス0.2%(日本は2007年の数字)を凌駕している(ADB, Key Indicators)。
 しかし、注目すべきことは、中国にしても韓国にしても資金余剰は、国内外への投資が活発であったのにもかかわらず、投資を凌駕する貯蓄にもとづいていることである。事実、外貨準備が急増し、資金余剰となった中国は欧米諸国の国債を購入してきたが、10年には日本国債の購入が急増し始めている。
 同様に、対外直接投資も旺盛であった。08年度の対外直接投資に関しても、韓国の場合、217億1144万ドルと過去最高であったものの前年比1.4%の増加に留まっているのに比べて、中国の対外直接投資は、前年比96.7%増の521億5000万ドルと過去最高を記録している(ジェトロ『貿易投資白書』)。
 投資資金は、国内貯蓄および株式発行の自己資本金融と、銀行借入および債券発行の負債金融によって賄われるが、アジア企業とくに中国企業の資金調達は、債券発行も株式発行も活発である。ギリシャの財政不安の影響を受けて、2010年上半期の米国、欧州の資金調達が前年同期に比べそれぞれ37%減、53%減、また日本も微増した程度であったのを尻目に、日本以外のアジア勢の資本市場からの資金調達は大幅に増加している。中国、インド、韓国がそれを代表するが、なかでも中国の調達額はアジアの約4割を占めるほどである(日本経済新聞、2010年7月11日)。
 実際、中国の資本市場の伸張は著しい。もともと韓国は債券発行が多く、中国は株式発行が多いという特徴があるが、2002年から07年にかけて、中国は19倍の増加であったのに対して、韓国はほぼ3倍増加したのにすぎない。さらに、中国は09年に外資系銀行にも債券の引受業務を解禁したこともあって、債券市場の整備、拡大が予想される。他方、同期間の株式発行は、韓国が2.3倍の増加であったのに対して、中国のそれは14.9倍にのぼっている(IMF, Global Financial Stability Report)。その中心的な役割を果たしてきたのが、海外からの投資が自由な香港市場であったが、投資信託の形で資金が流入してきた。また、02年に、適格海外機関投資家(QFII)制度が実施され、海外投資家に門戸が開かれるなど、上海および深?市場の整備も、資本市場の拡大に与っている。
 しかし、中国の金融・資本市場が今後も順調な発展を遂げるためには、グローバル化への一層の対応と農村金融の整備が不可避と思われる。グローバル化に関しては、債券市場においてベンチマークとなる金融商品の発行が遅れていることが課題となっている。中国国家開発銀行の債券発行をみずほコーポレート銀行が引き受けたように、引受業務が外資系銀行に開放されたことによって、流通市場の整備が期待できるが、今後は法制度を整備することによって信頼性を高める必要がある。株式市場にしても、外国人投資家が認可取得を得るプロセスに不明瞭さが残されているなど、QFII制度の更なる整備が望まれている。
 さらに、深刻な問題は、中国全体で資金余剰となっているのにもかかわらず、農家や中小企業への資金供給が不十分であることである。農村金融は、農業銀行、農村信用合作社(農村信用社)、郵政貯蓄為替局のフォーマル金融機関と、農村合作基金会、相互組織(会)、親戚・友人のインフォーマル金融機関によって構成されているが、農家、中小企業はフォーマル金融機関にアクセスするのが難しく、インフォーマル金融機関に依存しているケースが多いのが実情である。しかし、フォーマル金融機関もインフォーマル金融機関も経営基盤が弱いことで共通している。これまでも農村金融を活性化するため、農村信用社をはじめ既存金融機関の強化策、小口貸出拡充のための新形態の金融機関の設立、監督機関として銀行業監督管理委員会(銀覧会)の設立が実施されてきた。
 しかし、さらに、農村部の資金チャンネルの確立にとって重要なことは、市場メカニズムを土台にしたインフォーマル金融からフォーマル金融への転換、また情報公開法、銀行法、金融商品取引法などに係わるプルーデンス規制の強化に加えて、地域のニーズに合致した金融システムの構築ではないのだろうか。


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