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第5号、2010年06月15日発行 目次
無断転載禁止。著作権は各著者にあります。
  1. 巻頭言:グローバリゼーションと出稼ぎ労働者
  2. ハワイ州と沖縄県におけるバイオ燃料開発の展開 
  3. エコノミックガーデニング:新しいビジネス環境整備手法
  4. 農業クラスター・モデルによるアフリカの地域農業開発:
    モザンビーク国ナカラ回廊地域を事例として
  5. アジアの政治・経済動向(4) インドの自動車産業(第4回、最終回)
  6. ニュースの裏を読む(5) 上海万博(中国2010年上海世界博覧会)
  7. 編集後記


I. 巻頭言:グローバリゼーションと出稼ぎ労働者 (印刷用pdf)
辻 忠博 Tsuji Tadahiro
アジア近代化研究所研究員
日本大学経済学部教授

 グローバリゼーションの下,世界経済はますます相互依存関係を深めている。日本もこの流れから例外ではなく,インドネシアとフィリピンとの間で経済連携協定が発効し,モノの取引だけでなく,労働者の移動制限も緩和され,両国から第1陣として500名弱(インドネシアから208名,フィリピンから273名)の看護師・介護福祉士候補者が来日した。一方で,出稼ぎ労働者を受け入れている先進国では,彼らを排除しようという動きが強まっている。例えば,日本では看護師候補者の来日の条件として日本語能力試験合格を新たな条件として追加しようと検討している。オランダでは,6月9日に投開票された下院総選挙でイスラム教徒移民の排斥を訴える極右の自由党が第3党に躍進している。このように,出稼ぎ労働者は受入国である多くの先進国でじゃま者扱いされているが,我々は出稼ぎ労働者排斥の動きをいかに受けとめるべきであろうか。外国人労働者問題について考える視点は他にもあるはずである。
 世界各国の出稼ぎ労働者からの送金額は2009年に減少に転じた(前年比6.0%減)。その総額は3160億米ドル(2009年)である。過去3年間の送金額の伸び率は拡大していたため(2006年は18.4%,2007年は23.1%,2008年は15.9%),2008年後半以降の世界経済の低迷は送金額の減少の主因といえる。地域別動向も基本的には同様で欧州・中央アジア向けは20%を超える減少幅である。一方で,南アジア向けについては4.9%の伸びで,東アジア・太平洋向け減少幅はわずかである(0.4%減)。所得水準別にみると,中所得国向けは減少しているが,低所得向けはわずかながら増加している(1.0%増)。送金受け取りの二大国はインドと中国であり(2009年の受取額はそれぞれ490億米ドル,480億米ドル),両国だけで途上国向け送金額の3割を占めている。しかし,各国の経済規模に対する送金額の割合はこれとは異なり,上位10ヵ国はタジキスタン(50%),トンガ(38%),モルドバ(31%),キルギス共和国(28%),レソト(27%),サモア(26%),レバノン(25%),ガイアナ(24%),ネパール(22%),ホンジュラス(20%)となっている(いずれも2008年の対GDP比)。すなわち,これらの経済規模が小さな一部の途上国では送金が一国経済を下支えする欠くことの出来ない構成要素となっているのである。いわば,送金はこうした諸国にとっては生命線なのである。
 ところで,世界経済の低迷は,出稼ぎ労働者が一国経済の稼ぎ柱となっている小規模途上国に対して大きな試練を与えている。受入国である先進国では雇用環境が悪化し,派遣労働者の雇い止めなどのために相次ぐ解雇が発生しているが,出稼ぎ労働者も例外ではない。そこで,受入国である先進国の中には,出稼ぎ労働者に本国帰還を促している。例えば,日本は2009年4月に日系人離職者に対して帰国費用として30万円を支給する制度を始めた。こうした措置は本国帰国後,一定期間内に再び出稼ぎ労働者として渡航することを禁じている場合が多い。また,多くの受入国では出稼ぎ労働者の受け入れ制限を強化しているため,新規で出稼ぎ労働に行くことはますます難しくなっている。EU諸国では,ポイント・システムを導入して外国人労働者の選別をはじめようとしている。
 中央アジアのタジキスタン,キルギス共和国や南アジアのネパールなど小規模途上国は特定の受入国へ大量の労働者を派遣している。したがって,受入国の景気が低迷したり,労働政策が変更されたりすると,これらの送出国のライフラインが脅かされるのである。経済構造を多様化して,健固な経済基盤を整えることは途上国政府自身が取り組むべき最重要課題の1つである。しかし,グローバリゼーションがますます深化する中で,途上国の開発問題は世界経済との関わりなくして存在しえない。出稼ぎ労働者を受け入れている先進国は自国の事情に固執することなく,送出国に及ぼす影響も考慮に入れた上で経済運営を行うことが求められるのである。


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